
建築物の防火安全を確保するため、建築基準法では内装制限という基本的な規制が定められています。この制度により建物の用途や規模に応じた内装材料の使用が義務付けられ、火災時における延焼拡大の抑制と避難時間の確保をしています。適切な知識と運用で安全な建築物を設計できます。
内装制限の基本的な定義と目的を理解する
建築物の火災安全性を確保するために、建築基準法では様々な防火規定が設けられています。その中でも特に重要な位置を占めるのが内装制限であり、多くの建築物で適用される基本的な防火対策となっています。
内装制限とは何か?その定義と背景
建築基準法における内装制限とは、建物内部で火災が発生した際に炎の拡大や有毒ガスの発生を抑制し、建物利用者の安全な避難を確保するための規制です。この制度は、室内の壁や天井の仕上げ材料を燃えにくい防火材料に限定することで、火災時の被害を最小限に抑えることを目的としています。
火災時における内装制限の役割と重要性
火災が発生すると、炎は上方向に向かって燃え広がる性質があります。このとき内装材料が可燃性であれば、急速に延焼が拡大し避難経路が塞がれる危険性が高まります。防火材料を使用することで、火災の拡大速度を遅らせ、建物利用者が安全に避難するための時間を確保できるのです。
建築基準法第35条の2における内装制限の規定
建築基準法第35条の2「特殊建築物等の内装」では、対象となる建築物において政令で定める技術的基準に従い、壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならないと規定されています。この条文が内装制限の法的根拠となっており、具体的な基準は建築基準法施行令で詳細に定められています。
内装制限が建築物の安全性に与える影響
適切な内装制限の実施により、火災時の安全性は大幅に向上します。防火材料の使用は単に延焼を遅らせるだけでなく、有害な煙やガスの発生を抑制し、避難時の視界確保や健康被害の防止にも寄与しています。これにより建物利用者の生命安全が確保され、消防活動も効率的に行えるようになります。
内装制限の対象となる建築物の種類と条件を把握する

建築基準法では、すべての建築物に内装制限が適用されるわけではありません。建物の用途や規模、構造などの条件により対象が決定され、それぞれ異なる基準が設けられています。
特殊建築物における内装制限の適用条件
劇場や映画館、病院、ホテル、百貨店、飲食店などの特殊建築物では、不特定多数の人が利用するため厳格な内装制限が適用されます。これらの建築物では、建物の構造(耐火・準耐火・その他)と床面積の組み合わせにより、居室部分には難燃材料以上、通路や階段部分には準不燃材料以上の使用が義務付けられています。
大規模建築物に対する内装制限の基準
階数が3以上で延べ面積500㎡超、階数2で延べ面積1,000㎡超、階数1で延べ面積3,000㎡超の建築物が大規模建築物として分類されます。これらの建築物では用途に関係なく、居室部分に難燃材料以上、通路や階段部分に準不燃材料以上の内装材料の使用が求められ、建物の規模に応じた安全対策が講じられています。
無窓居室や火気使用室における内装制限の適用
床面積50㎡を超える無窓居室では、天井から80cm以内の開口部面積が床面積の1/50未満の場合に内装制限が適用されます。火気使用室については、住宅の調理室や浴室(最上階を除く)、住宅以外のボイラー室や作業室などが対象となり、いずれも壁と天井に準不燃材料以上の使用が義務付けられています。
建築物の構造や用途による内装制限の違い
耐火建築物と準耐火建築物、その他の建築物では、同じ用途であっても適用される内装制限の基準が異なります。耐火建築物では比較的緩やかな基準が適用される一方、その他の建築物では厳格な基準が設けられています。この差は建物全体の防火性能の違いを反映したもので、構造と内装の両面から総合的な安全性を確保しています。
内装制限の対象部位と対象外部位を明確にする
建築物の内装において、どの部位が制限の対象となり、どの部位が対象外となるかを正確に把握することは、効率的な設計と適切な材料選定のために極めて重要です。この区分を明確にすることで、コストと安全性のバランスが取れた計画が可能です。
壁と天井が内装制限の対象となる理由
火災時の炎は上方向に向かって燃え広がる特性があるため、壁と天井の仕上げ材料が内装制限の主要な対象となっています。これらの部位が可燃性材料で仕上げられていると、火災の拡大が急速に進み、避難経路の確保が困難になる危険性があります。
床や建具が内装制限の対象外となる理由
床材料は火災時に直接炎に触れる可能性が低く、燃焼による直接的な延焼拡大への影響が限定的であることから、内装制限の対象外とされています。建具についても、防火区画における防火戸などは別途規定がありますが、一般的な内装建具は内装制限の範囲に含まれません。これらは別の防火規定により安全性が確保されています。
壁の床面から1.2m以下の部分の取り扱い
壁面のうち床面から高さ1.2m以下の腰壁部分は、内装制限の対象外とされています。この高さは避難時の人の姿勢を考慮したもので、火災初期段階では煙が上部に蓄積するため、下部の材料による延焼リスクが相対的に低いと判断されています。ただし窓台や巾木なども同様に対象外です。
防火材料の種類と性能基準を理解する
建築基準法で定められた防火材料は、火災時の性能に応じて3つのグレードに分類されています。それぞれの材料は厳格な試験により性能が確認され、国土交通大臣による認定を受けています。これらの基準を理解することで、適切な材料選定が可能です。
不燃材料・準不燃材料・難燃材料の定義と性能基準
不燃材料は加熱開始から20分間、準不燃材料は10分間、難燃材料は5分間にわたって燃焼せず、有害な変形や損傷を生じないことが求められます。これらの材料は燃焼しないこと、防火上有害な変形や溶融を起こさないこと、避難上有害な煙やガスを発生しないことの3つの基本条件を満たす必要があります。
防火材料の認定制度と表示方法
防火材料は告示で定められた材料と、個別に大臣認定を受けた材料に分かれます。認定を受けた材料には、不燃材料はNM番号やNE番号、準不燃材料はQM番号やQE番号、難燃材料はRM番号やRE番号といった認定番号が付与されます。これらの番号により、材料の防火性能を容易に確認することができます。
防火材料の選定時の注意点とポイント
防火材料を選定する際は、単に防火性能だけでなく、施工性や意匠性、コストも考慮する必要があります。不燃材料は準不燃材料や難燃材料の基準も満たすため、より厳しい基準が要求される部位には上位グレードの材料を使用することで、統一感のある仕上げが可能になります。環境配慮や耐久性も重要な選定要素です。
内装制限の緩和条件とその適用範囲を確認する

建築基準法では、一定の条件を満たすことで内装制限を緩和できる措置が設けられています。これらの緩和措置を適切に活用することで、設計の自由度を高めながら必要な安全性を確保することが可能になります。ただし適用には慎重に検討しましょう。
スプリンクラーや排煙設備の設置による緩和措置
スプリンクラー設備や水噴霧消火設備、泡消火設備などの自動式消火設備を設置した建築物では、これらの設備が火災の拡大を効果的に抑制するため、内装制限の適用が免除される場合があります。排煙設備についても、煙の排出により避難環境が改善されることから、同様の緩和措置が適用されることがあります。
防火区画や避難経路の設計による緩和条件
床面積100㎡以内ごとに適切な防火区画を設け、かつ天井高が3m以上確保された居室では、内装制限の緩和が認められる場合があります。避難経路を含まない居室や、避難階および避難階の直上階で自動火災報知設備が設置されている場合にも、緩和措置の適用が可能になることがあります。
緩和措置を適用する際の注意点と手続き
緩和措置の適用には、建物の用途や規模、階数など複数の条件を同時に満たす必要があります。都道府県によっては独自の条例で追加の制限を設けている場合もあるため、事前の確認をしましょう。緩和措置を検討する際は、必ず所管の建築主事や指定確認検査機関に相談し、適用可能性を慎重に判断することが求められます。
内装制限違反時の罰則と責任を理解する
建築基準法の内装制限に違反した場合、厳格な罰則が科せられます。建築主や設計者、施工者はそれぞれ異なる責任を負うため、各立場における義務と責任の範囲を正確に理解し、違反を未然に防ぐ体制を整備しましょう。
内装制限違反による法的罰則とその内容
建築基準法の内装制限に違反した場合、個人では3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります。法人の場合はさらに重く、1億円以下の罰金が課せられることがあります。これらの罰則は建物利用者の生命に直結する重大な違反として位置付けられており、社会的責任の重さを反映したものとなっています。
建築主や設計者の責任と義務
建築主が内装制限違反を知りながら設計を指示した場合は建築主が、建築主からの指示なく設計者が違反する設計を行った場合は設計者が責任を負うことになります。設計者には適切な法令の把握と遵守が求められ、建築主には法令遵守の重要性を理解し、適切な指示を行う義務があります。
内装制限違反を防ぐためのチェックポイント
内装制限違反を防ぐには、設計段階での建物用途と規模の正確な把握、使用材料の防火材料認定番号の確認が重要です。施工時には指定材料の使用状況を現場で確認し、完成前には法令適合性の最終チェックを実施することで違反を未然に防げます。
まとめ
建築基準法における内装制限は、建物利用者の生命安全を守る重要な防火規定です。対象建築物の正確な判定と適切な防火材料の選定、緩和措置の活用により、安全性と設計自由度の両立ができます。違反時の重大な罰則を避けるためにも、各段階でのチェック体制構築が不可欠です。
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