建築設計におけるBIM活用は、企画段階から運用まで一貫した情報管理を実現します。しかし、各フェーズで何を準備し、どのように進めるべきか迷う設計者や発注者は少なくありません。本記事では、BIMを活用した建築設計プロセスの全体像を、準備から引渡し後の運用まで段階的に解説します。
BIMを建築設計に導入する前の準備フェーズ
BIM導入を成功させるには、プロジェクト開始前の準備が欠かせません。目的やスコープが曖昧なまま進めると、設計途中でデータ連携が滞り、本来のメリットを活かせなくなります。準備段階で明確なルールと体制を整えれば、後続の設計フェーズがスムーズに進行します。
プロジェクト企画段階:BIM活用目的・スコープ・プロジェクト目標を定める
BIM導入では、まずプロジェクトで何を達成したいかを明確にします。設計品質の向上、施工での干渉チェック、維持管理への情報引継ぎなど、目的によって必要なモデル詳細度が変わります。プロジェクト規模や関係者の体制に応じて、BIMをどの範囲でどう活用するかを企画段階で決定すれば、効率的な設計が可能になります。
発注者情報要件(EIR)・BIM実行計画(BEP)・CDE(共通データ環境)の整備
発注者情報要件(EIR)は、発注者がBIMに求める情報内容を示す文書です。BIM実行計画(BEP)は、設計者が作成する具体的な実行プランを指します。双方を整備すれば、認識が一致し手戻りを防げます。CDE(共通データ環境)を構築すれば、クラウド上で常に最新データを関係者全員が参照できます。
ソフトウェア・テンプレート・モデル共有ルールなど設計体制の準備
BIMソフトウェアは、意匠・構造・設備の各分野に適した製品を選定します。テンプレートを事前に作成しておけば、レイヤー構成を統一でき、複数人での作業時にデータの整合性が保たれます。ファイル命名規則やフォルダ構成、更新タイミングなどのモデル共有ルールを明文化すれば、設計開始後の混乱を避けられます。
モデルのLOD(詳細度)・仕様・納品データ形式の事前決定
LODは、BIMモデルにどの程度の詳細情報を含めるかを示す指標です。基本設計ではLOD200程度、実施設計ではLOD300~350といった段階的な詳細化が一般的です。各フェーズでのLODを事前に決めておけば、過不足ない情報整備が可能になります。納品データ形式も受け渡し先の要件に応じて決定します。
基本設計段階におけるBIMモデリングの流れ

基本設計では、建物の基本形状や配置、法規適合性を検討します。BIMモデルを活用すれば、平面図だけでは把握しにくい空間のボリューム感や、法規制による斜線制限などを3次元で可視化できます。早期にモデル化すれば、発注者との合意形成もスムーズに進み、後工程での大幅な設計変更を防げます。
建物のボリュームモデル作成・配置検討・法規チェックとBIMモデル化
基本設計の初期段階では、建物の外形や配置をボリュームモデルとして3次元化します。敷地条件や日照を立体的に確認でき、発注者にも完成イメージが伝わりやすくなります。BIMソフトの法規チェック機能を使えば、斜線制限や容積率の算定を自動化でき、確認申請もスムーズに進められます。
意匠・構造・設備の基本設計モデル連携とワークフロー
基本設計では、意匠・構造・設備の各担当者が同時並行でモデルを作成し、統合して整合性を確認します。BIMでは3次元モデル上で干渉や不整合を早期に発見できます。CDE環境でモデルを共有すれば、各分野の最新データがリアルタイムで連携され、情報の齟齬を防げます。
初期コスト・概算数量・施工性・維持管理観点をBIMモデルで検証
基本設計段階のBIMモデルには、部材の概算数量やコスト情報を付与できます。モデルから自動算出した数量で初期コストを把握し、施工性の観点では大型部材の搬入経路をシミュレーションできます。設備機器の点検スペースもモデル上で確認すれば、竣工後の運用コストも考慮した設計が可能になります。
基本設計段階でのモデルレビュー・関係者合意と修正反映
基本設計の完了時には、モデルレビューを実施して関係者全員で内容を確認します。BIMの3次元モデルを用いれば、発注者も完成イメージを具体的に把握でき、認識のズレを防げます。モデル上で指摘をマークしCDE環境で共有すれば、修正履歴も残ります。修正内容は自動的に全図面に反映されます。
実施設計・詳細設計フェーズのBIM活用
実施設計では、基本設計で固めた内容をさらに詳細化し、施工に必要な情報を盛り込みます。BIMモデルに材料仕様や部材寸法、設備機器の型番などを追加すれば、施工図や数量表を自動生成できます。詳細度が高まるほどファイル容量も増えるため、データ管理ルールの徹底が重要になります。
実施設計モデルでの詳細成形・仕様・材料属性・構造・設備統合
実施設計段階では、基本設計のボリュームモデルに詳細な形状や仕様を追加します。壁や床の仕上げ材、建具の種類、設備機器の型番など、施工に必要な情報をモデルに組み込みます。意匠・構造・設備の各モデルを統合すれば、立体的に整合性を確認でき、納まりの問題も発見できます。
干渉チェック(clash detection)・コスト・スケジュールとの紐付け
実施設計では干渉チェックが重要です。BIMソフトの干渉検出機能を使えば、構造部材と設備配管の衝突を自動的に抽出できます。干渉箇所をリスト化し設計変更で解消すれば、施工段階での手戻りを防げます。BIMモデルにコスト情報とスケジュールを紐付ければ、工程管理の精度が高まります。
設計図書・数量表・施工図へのBIMからの展開と出力プロセス
実施設計が完了したBIMモデルからは、平面図・立面図・断面図などの設計図書を自動生成できます。モデルに修正を加えれば全図面に変更が反映されるため、図面間の不整合が発生しません。数量表も部材情報から自動算出され、積算業務の効率化につながります。出力フォーマットは受け渡し先の要件に応じて調整します。
関係者(設計・施工・家具/什器)との情報共有・変更管理
実施設計段階では、設計者だけでなく施工者や家具・什器メーカーなど多数の関係者が関わります。CDE環境でBIMモデルを共有すれば、各担当者が必要な情報にアクセスでき、連携がスムーズになります。設計変更が発生した際も、クラウド上で最新モデルを確認できるため、古いデータを参照するミスを防げます。
施工連携・引渡し・運用準備フェーズ
設計完了後、BIMモデルは施工段階へ引き継がれます。施工者はモデルを活用して工程管理や品質管理を行い、竣工時には維持管理用のモデルへ更新します。設計段階で蓄積した情報を施工・運用まで一貫して活用すれば、建物のライフサイクル全体で効率化が実現します。
施工フェーズへのBIMモデル引き渡し
実施設計完了後、設計者から施工者へBIMモデルを引き渡します。施工者は受領したモデルをベースに、施工計画の立案や工程シミュレーションを実施します。引渡し時には、モデルの詳細度や含まれる情報の範囲を明確に伝えます。CDE環境でデータを共有すれば、設計者と施工者が連携して問題を解決できます。
竣工モデル・引渡しモデルの整備と維持管理BIMへの移行
施工完了時には、実際に施工された内容を反映した竣工モデルを整備します。設計段階からの変更箇所や使用した設備機器の実際の型番を正確に記録します。引渡しモデルには、設備機器のメンテナンス周期や交換部品の品番など維持管理に必要な情報を追加し、運用担当者の要件に合わせて調整します。
運用フェーズでのBIM活用:保守・点検・改修・資産管理への展開
竣工後の運用フェーズでは、維持管理BIMを活用して保守点検や改修計画を効率化できます。設備機器の位置や仕様をモデル上で確認すれば点検作業の手間が省けます。改修工事を行う際も、既存のBIMモデルをベースに計画を立案でき、現況調査の工数を削減できます。資産管理では長期修繕計画の立案に活用します。
モデル更新と情報整理:ライフサイクルを見据えた設計・施工・運用の合流
建物のライフサイクル全体でBIMを活用するには、各フェーズでモデルを適切に更新し続ける必要があります。改修工事や設備更新を行った際は、その内容をBIMモデルに反映させます。情報が常に最新状態に保たれていれば、次回の改修計画もスムーズに立案できます。長期的な視点でモデルを育てていく意識が重要です。
設計・営業視点で押さえておきたいBIM設計流れの提案ポイント

発注者にBIM活用を提案する際は、単に技術的な優位性を説明するだけでは不十分です。プロジェクトの進め方や成果物の形式、費用対効果を具体的に示せば、発注者の理解と信頼を得られます。契約段階で流れを明確にすれば、後工程でのトラブルを防げます。
クライアントに「何をどのように進めるか」を明示するBIM設計プロセスの説明
発注者にBIMを提案する際は、各設計段階でどのようなモデルを作成し、どのような確認作業を行うかを分かりやすく説明します。基本設計ではボリューム検討と法規チェック、実施設計では詳細な仕様確定と干渉チェックといった流れを視覚的に示せば、発注者も安心してプロジェクトを任せられます。
プロジェクトスコープ・費用・納期とBIM導入流れを契約仕様に盛り込む方法
契約書にBIM活用の範囲と成果物を明記すれば、後工程での認識の齟齬を防げます。モデルの詳細度や情報項目、納品形式を具体的に記載します。費用面では、BIM導入による初期コストと効果を数値で示します。各設計フェーズでのモデル確認タイミングを契約に盛り込めば、最終段階での大幅な修正を防げます。
BIMモデル納品形式・共有フォーマット・連携ルールを明記する理由
納品時のモデル形式が明確でないと、受け手が活用できない場合があります。IFC形式での納品、特定のBIMソフト形式での提供など、発注者や施工者の環境に応じた形式を事前に決めます。ファイル命名規則やフォルダ構成、更新ルールを文書化すれば、複数の関係者が関わる場合でも情報管理が混乱しません。
設計段階から家具・内装・什器を含むBIM連携設計提案で差別化する方法
店舗や商業施設の設計では、設計段階から家具メーカーと連携し、製品の3Dモデルを設計BIMに組み込めば、より具体的な完成イメージを発注者に提示できます。照明の見え方や商品陳列の検討もモデル上で行えるため、内装デザインの質が向上します。設計・製造・施工の連携を提案すれば、他社との差別化につながります。
BIM建築設計で起こりがちな失敗と流れをスムーズにするチェックリスト
BIM導入には多くのメリットがありますが、準備不足や運用ルールの不備で失敗するケースも少なくありません。事前にトラブル事例を把握し、各フェーズでチェックリストを活用すれば、スムーズな設計プロセスを実現できます。
流れが曖昧で目的が定まらずBIM導入が中途半端になる事例
BIM導入の目的が不明確なまま開始すると、途中で活用が止まってしまうケースがあります。「とりあえず3Dモデルを作る」といった曖昧な目標では、どの情報をどこまで入力すべきか判断できません。結果、設計者の負担だけが増え、期待した効果が得られません。導入前に「何のために、どこまでBIMを使うか」を明確にします。
モデルの詳細度・属性情報が不足で施工・運用段階に支障が出たケース
設計段階で作成したBIMモデルの情報が不足していると、施工や運用段階で使えない場合があります。形状だけを3次元化しても、部材の仕様や数量情報がなければ積算や発注に活用できません。詳細度が低すぎると施工段階で再入力が必要になり、二度手間が発生します。各フェーズで必要な情報レベルを事前に定義します。
ソフト・テンプレート・プロセスが統一されておらずデータ連携が滞った例
複数の設計者が関わるプロジェクトでは、使用するソフトやテンプレートが統一されていないとデータ連携が困難になります。レイヤー構成が担当者ごとに異なれば、データの整合性が保てません。ファイル命名規則が統一されていないと、どれが最新版か分からなくなります。プロジェクト開始前にルールを文書化します。
プロセスごとのチェックリスト:準備・基本設計・実施設計・施工・引渡し・運用
各フェーズでチェックリストを活用すれば、作業漏れや情報不足を防げます。準備段階ではEIR・BEP・CDEの整備を、基本設計ではボリュームモデル作成と関係者合意を、実施設計では干渉チェックと数量算出を、施工段階ではモデル引渡しと工程シミュレーションを確認します。
まとめ
BIMを活用した建築設計では、企画から運用まで一貫した情報管理が可能になります。準備段階でEIRやBEP、CDEを整備し、各フェーズで適切なLODを定義すれば、設計から施工、維持管理まで円滑にデータが引き継がれます。干渉チェックやコスト管理、工程シミュレーションといったBIMの機能を最大限に活用するには、目的の明確化とルールの統一が不可欠です。プロセス全体を理解し、チェックリストで確認を重ねれば、手戻りの少ない効率的なプロジェクト運営が実現します。
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