インクルーシブデザインとは?誰も取り残さないデザインの考え方と進め方

デザイナー 打ち合わせ

年齢や障がいの有無、国籍や言語の違いに関わらず、誰もが快適に利用できる製品やサービスを生み出す手法があります。排除されがちだった人々の視点を取り入れながら、すべての人に価値を届けるインクルーシブデザインは、社会の多様性が広がる現代において欠かせない考え方です。

インクルーシブデザインとはどんな考え方?

製品やサービスの開発において、従来は想定されにくかった利用者の声を積極的に取り入れる手法が求められています。高齢者や障がい者、外国人など、多様な背景を持つ人々が最初から参加し、一緒に作り上げていく過程を重視します。単なる配慮ではなく、あらゆる人が対等な立場で関わり、より良い解決策を見出していく姿勢が基本となります。

インクルーシブデザインが大切にしている「すべての人を含める」という視点

「包括的」を意味するインクルーシブという言葉には、誰も排除しないという強い意志が込められています。製品開発では市場規模の大きな平均的なユーザーに焦点が当たりがちで、特定の制約を持つ人々のニーズが見過ごされてきました。障がいの有無や年齢、性別、国籍など、あらゆる違いを認め合いながら共生していく社会を目指します。海外で言葉が通じない経験など、誰もが一時的に制約を感じる場面から、日常的に困難と向き合う人々の視点を理解していく必要があります。

ユニバーサルデザインとの違いって?

どちらも幅広い人々の使いやすさを目指しますが、アプローチに明確な違いがあります。ユニバーサルデザインは専門家が7つの原則に基づき、多くの人が利用できる汎用性の高い設計を行います。対照的にインクルーシブデザインでは、企画の初期段階から当事者が参加します。実際に不便を感じている人々と一緒に課題を発見し、解決策を探る過程を大切にします。結果として万人向けにならない可能性もありますが、健常者が気づかない新しい価値や発見が生まれやすい点が特徴です。

インクルーシブデザインが注目されるようになった背景

1990年代のイギリスで、ある教授が車椅子を利用する友人からキッチンデザインを依頼された出来事が転機となりました。「周囲が羨むような空間にしたい」という希望を聞き、障がいのある人も美しさや心地よさを求めている現実に気づきます。日本でも少子高齢化が進み、外国人居住者の増加や価値観の多様化が顕著です。SDGsの「誰一人取り残さない」という理念とも深く結びつき、企業にとっても潜在ニーズを掘り起こす機会として注目されています。

まず知っておきたい基本の用語とポイント

企画の早い段階から参加し製品開発を導く当事者を「リードユーザー」と呼びます。将来多くの人が直面するニーズをいち早く体験している存在です。「アクセシビリティ」はさまざまな人がどれだけ円滑に利用できるかを示す尺度で、インクルーシブデザインによって高められます。「バリアフリー」は既存の障壁を取り除く考え方ですが、インクルーシブデザインは最初から障壁のない設計を目指します。多様性を受け入れる「ダイバーシティ&インクルージョン」も企業経営で重要視されています。

インクルーシブデザインが役立つ場面と実例

オフィス 車椅子 バリアフリー

身の回りには、気づかないうちにインクルーシブな発想で作られた製品があふれています。日用品から建築空間、デジタルサービスまで、幅広い分野で実践されている工夫を知れば、誰もが使いやすい設計の価値が実感できます。当事者の声を起点に生まれた製品が、結果として多くの人の生活を豊かにしている実例を見ていきます。

プロダクトやサービスでの実例

スポーツ用品メーカーでは、手を使わずに着脱できる画期的なシューズを開発しました。手足に障がいのある若者の声をきっかけに、かかとで踏み込むとロックがかかる仕組みを考案しています。時計メーカーでは視覚障がい者学校と協力し、文字盤に触れて時刻を確認できる腕時計を開発しました。ファッション性を保ちながら機能を備えた点が特徴です。衛生陶器メーカーの公共トイレは、車椅子利用者だけでなくオストメイト対応設備など、多様なニーズに応える空間設計を実現しています。

デジタルデザイン(Web/アプリ)での活用例

ウェブサイトやアプリケーションでもインクルーシブな設計が重要視されています。スマートフォンの音声読み上げ機能は、画面が見えなくてもジェスチャーでデバイスを操作できる仕組みです。音声文字変換アプリでは話し言葉を即座にテキスト化し、聴覚障がい者の会話参加を助けます。洗濯機操作アプリでも音声読み上げに配慮した設計が採用されています。文字サイズの調整や色のコントラスト設定など、選択肢を増やす取り組みが広がり、すべての利用者にとって使いやすい環境が実現しつつあります。

環境や空間デザインでのインクルーシブな工夫

公共の遊び場では障がいの有無に関わらず子どもたちが一緒に遊べる「インクルーシブ公園」が増えています車椅子のまま利用できるスロープや砂場、背もたれ付きブランコなど多様なニーズに応える遊具が設置されています。美術館では複雑な道のりを「迷路のように楽しめた」という弱視の方の感想から、新しい体験価値を創造するフィールドワークを企画しました。建築やオフィス空間でも高さ調整可能なデスクや人間工学に基づいた椅子など、身体特性や作業スタイルに対応した工夫が求められます。

生活のあらゆる場面で使える考え方

牛乳パック上部の小さなくぼみは、目の不自由な方が触って牛乳だと判断できる工夫です。電卓や固定電話のテンキーにある「5」の突起も視覚に頼らず操作できる配慮です。絆創膏メーカーでは多様な肌の色に対応したカラーバリエーションを展開し、世界中の利用者から好評を得ています。服のお直しサービスでは障がいのある方の体型や動作の特性に合わせて衣服をリメイクし、着たい服を自分らしく着られる支援を提供しています。こうした日常の小さな工夫が積み重なり、誰もが快適に暮らせる社会が実現していきます。

インクルーシブデザインの進め方・ステップ

打ち合わせ

実際にインクルーシブデザインを取り入れる際には、体系的なプロセスを踏む必要があります。多様な視点を集め、偏見に気づき、アイデアを形にして評価していく一連の流れを理解すれば、効果的に実践できます。当事者と対話しながら進める手順と、それぞれの段階で意識すべきポイントを整理します。

多様なユーザーのニーズを知るリサーチ方法

どのような状況で、どのような人が排除されているのかを正確に把握するところから始まります。ユーザーインタビューやエスノグラフィー調査など、実際の利用場面を観察する手法が有効です。高齢者や障がい者だけでなく、外国人や子育て中の方など幅広い対象を想定します。当事者コミュニティと継続的に関わり、信頼関係を築きながら本音を聞き出す姿勢が求められます。困りごとだけでなく日々工夫している解決策にも注目し、実際の生活場面に同行して体験を共有すれば、見過ごされてきた課題が明確になります。

チームで偏見に気づくプロセスをつくる

自社のチームだけで開発を進めると、無意識の偏見が入り込みやすくなります。「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれる思い込みは誰もが持っているもので、性別や年齢、国籍などで無意識に判断してしまう傾向を自覚し取り除く努力が必要です。デザインプロセス全体を通してさまざまな背景を持つ人々を巻き込み、定期的に意見交換の場を設けます。偏見に気づくための研修を実施する企業も増えています。一人ひとりが自分の固定観念を見つめ直し、柔軟な発想で課題に向き合えば、より良い解決策が生まれます。

アイデア出しから評価・改善までの流れ

リサーチで得た気づきをもとに解決策のアイデアを出し合います。発想の段階では実現性や費用対効果を考えず、自由な意見を歓迎します。プロトタイプを作成し当事者に実際に使ってもらいながら改善を重ね、試作と検証を繰り返すなかでより良いデザインに近づけていきます。評価の際には使いやすさだけでなく心地よさや満足感も確認します。機能性に加えて美しさや魅力も備えているかを検証し、複数の利用方法を用意してそれぞれが同等の体験を得られるように調整します。当事者からのフィードバックを真摯に受け止め、継続的に改善していく姿勢が成功の鍵です。

実装後の評価と継続的な改善のポイント

製品やサービスのリリース後も実際の利用状況を観察し続けます。さまざまな属性の利用者を対象としたテストを実施し、想定外の課題を洗い出します。定量的なデータだけでなく定性的な感想や印象も重要な改善のヒントです。リードユーザーと継続的に関わりフィードバックを受け取る仕組みを作り、一度意見を聞いただけで終わらせず関係性を保ちながら知見を深めていきます。小さな改善を積み重ねながらアクセシビリティを高め、全体の体験価値を向上させます。継続的な改善によって、より多くの人に選ばれる製品やサービスへと成長します。

インクルーシブデザインを取り入れる際のよくある悩みと解決策

実践しようとすると、さまざまな疑問や不安が生まれます。ターゲットの設定やコスト面、組織内の理解など、よくある課題に対する具体的な対処法を知っておけば、スムーズに進められます。完璧を目指さず、できるところから始める姿勢が大切です。

ターゲットを広げすぎてしまう不安への対応

すべての人のニーズに応えようとすると焦点がぼやけてしまう懸念があります。インクルーシブデザインは特定の課題を持つ人の視点を起点とし、そこから価値を広げていく手法です。最初から万人向けを目指すのではなく、まず一人の困りごとを深く理解します。複数のリードユーザーがいる場合はプロジェクトの目的に照らし合わせて優先順位をつけます。デザイナーはファシリテーターとして異なる意見をまとめる役割を担い、当事者の発想を製品に落とし込むには高い専門性とコミュニケーション能力が必要です。

コストと時間の制約をどう乗り越えるか

多様なユーザーを巻き込むプロセスには通常よりも多くの時間と労力がかかります。リサーチや対話、試作と改善を繰り返すには十分なリソースの確保が課題です。しかし段階的に検証しながら進めれば失敗した際のダメージを抑えられます。小規模な実験から始め効果を確認しながら拡大していく手法が現実的です。優先度の高い部分から着手し、長期的には新たな市場の開拓につながります。外部の専門家やエージェントを活用すれば効率的に進められ、社内にノウハウが蓄積されるまで外部の力を借りながら体制を整えていく選択肢もあります。

社内の理解を得るためのポイント

インクルーシブデザインの重要性が十分に浸透していない組織では理解を得るのに時間がかかります。数値目標に縛られがちな現状もあり、女性管理職の比率や障がい者雇用率といった数字の達成が優先されてしまいます。本質的な価値は多様な人材がいきいきと働き個性を活かして成果を出せる環境にあります。インクルーシブは特定の人を優遇するのではなくすべての人のための取り組みだという意識改革が求められます。成功事例を共有し実際の効果を示せば説得力が高まり、ブランドイメージの向上や新たな顧客層の獲得などビジネス面でのメリットも伝えられます。

小さな改善から始める具体的なヒント

大規模なプロジェクトでなくても身近な場面から実践できます。ウェブサイトの文字サイズや色のコントラストを調整する、キーボード操作だけですべての機能にアクセスできるようにするなど、アクセシビリティの基本から取り組みます。パッケージの開けやすさや製品の持ちやすさなど日常的に使う道具の改善点を見直し、社内の従業員にヒアリングして困りごとを集めるだけでも気づきが生まれます。専門家に相談しアドバイスを受けるのも有効です。完璧を目指さずできるところから始めて少しずつ改善を重ねていけば確実に前進します。

まとめ

インクルーシブデザインは、多様な人々の声を起点に、誰もが使いやすい製品やサービスを生み出す手法です。当事者と対話しながら課題を発見し、解決策を探る過程を通じて、新たな価値が創造されます。完璧を目指さず、小さな改善から始めれば、着実に実践できます。社会の多様性を受け入れ、誰一人取り残さない姿勢を持つことで、より豊かな未来が実現します。

◤カグポン◢◤
家具業界初の営業効率化ツール
家具をポンッと配置して、その場で3Dの提案書と見積もりが作れます!

▼詳細はこちら
https://www.kagupon.com/

この記事を読んだ方におすすめ