建築におけるEPSとは?電気配線スペースと発泡ポリスチレンの違いと役割を解説

電気工事

建築図面や現場でよく耳にする「EPS」という用語には、実は全く異なる2つの意味があることをご存知でしょうか。電気配線スペースを指すElectric Pipe Spaceと、断熱材として使用される発泡ポリスチレンのExpanded Polystyreneです。この混同しやすい用語について、それぞれの特徴や役割、設計時の注意点まで詳しく解説していきます。

EPSとは?建築における2つの意味を正しく理解しよう

建築業界でEPSという用語を聞いたとき、多くの方が混乱を感じるのではないでしょうか。同じ「EPS」という略語でありながら、全く異なる2つの意味で使われているからです。

Electric Pipe SpaceとExpanded Polystyreneの意味

建築分野で使用されるEPSには、電気配線スペースを表すElectric Pipe Spaceと、発泡ポリスチレンを意味するExpanded Polystyreneの2つがあります。前者は建物内の電気設備の配線経路として設けられる空間で、後者は断熱材として使用される建築材料です。

用途・分野によるEPSの違い

電気配線スペースとしてのEPSは、主に中高層建築物やオフィスビルで重要な役割を果たします。基準階面積の1~2%程度のスペースが必要とされ、500~700平方メートルごとに1箇所の設置が求められます。建材としてのEPSは、住宅の外壁断熱や基礎断熱として幅広く活用されています。

建築図面に出てくるEPS表記の読み解き方

建築図面でEPS表記を見つけたとき、まず周辺の情報から判断することが大切です。平面図や断面図で共用廊下や階段室近くに描かれている場合は電気配線スペースを指します。断熱材の仕様書や外壁詳細図に記載されている場合は発泡ポリスチレンを意味しています。

なぜ「EPS」が混同されやすいのか?

同じ略語が異なる意味で使われる理由は、建築業界の専門分野が細分化されていることにあります。電気設備の専門家は配線スペースとしてのEPSに慣れ親しんでおり、断熱材の専門家は発泡ポリスチレンとしてのEPSを日常的に扱っています。

電気配線スペースとしてのEPSの役割と設計ポイント

工事 作業員

現代の建築物において、電気設備は生活や業務に欠かせない重要なインフラです。外部から引き込まれた電気を各階に効率よく配電するためには、計画的な配線経路の確保が必要です。

EPS(Electric Pipe Space)とは何か?

Electric Pipe Spaceは、建物内で電気配線や通信線を縦方向に通すための専用空間です。外部から引き込まれた電気を各階の分電盤や制御盤へ効率的に配線するため、上下階をつなぐ重要なインフラとして機能します。コンクリートスラブには事前に開口部を設け、幹線ケーブルや制御線などの電気設備を安全に収納する役割を担っています。

配線効率と保守性を考慮した設計上の注意点

電気配線スペースの設計では、幹線や分岐回路配線の出入りがしやすい場所への配置が求められます。負荷がかかる照明やコンセントの中心付近に設置することで、配線の効率化が図れます。メンテナンス作業を行う際のアクセス性も重要で、共用部に面した場所への配置が推奨されています。

上下階の同一位置配置とスペース確保

建物が複数階にわたる場合、電気配線スペースは各階で同じ位置に設置することが基本原則とされています。異なる位置に配置すると配線経路が複雑になり、施工コストの増加や保守性の悪化を招きます。設計段階では将来の機器増設や電力需要の変化も想定し、十分な拡張スペースを確保しておきましょう。

ノイズ対策と強電・弱電の分離配線

電気配線スペース内では、ノイズなどの障害を防止するために強電系配線と弱電系配線を分離して配線する必要があります。電力供給用の強電系配線と通信用の弱電系配線が近接すると、電気的な干渉により通信品質に悪影響を与える可能性があるためです。

発泡ポリスチレンとしてのEPSの特徴と用途

発泡スチロール 断熱 建築

建築材料としてのEPSは、優れた断熱性能と軽量性を併せ持つ素材として広く活用されています。ポリスチレン樹脂を発泡させて作られるこの材料は、住宅から土木工事まで幅広い分野で使用されています。

EPS(Expanded Polystyrene)の構造と性質

Expanded Polystyreneは、ポリスチレン樹脂を発泡させて作られた軽量のプラスチック材料です。内部に無数の気泡を含んでおり、これが空気の層を形成することで高い断熱効果を発揮します。約98%が空気で構成されているため非常に軽く、加工性にも優れています。

建築用断熱材として使用

建築分野では、外壁断熱や基礎断熱、屋根断熱などの用途で幅広く使用されています。優れた断熱性能により冷暖房効率の向上に貢献し、エネルギーコストの削減効果が期待できます。耐水性にも優れているため、湿気の影響を受けやすい場所での使用にも適しています。

土木・盛土・軽量資材としての応用

建築分野以外でも、土木工事における軽量盛土材として活用されています。一般的な土やコンクリートに比べて約1/100の軽さであり、地盤にかかる荷重を大幅に軽減でき、軟弱地盤や斜面造成において有効で、施工が早く再掘削性にも優れています。

施工性・断熱性・環境性能の評価

発泡ポリスチレンは現場作業において優れた施工性を発揮します。軽量であるため運搬が容易で、カッターなどで簡単に切断や調整が可能です。断熱性能については長期間にわたって安定しており、南極の昭和基地では40年以上経過した製品が建築当初とほぼ変わらない性能を保持していることが確認されています。

EPSのそれぞれの用途におけるメリットとデメリット

建築におけるEPSの活用を検討する際は、それぞれの用途における長所と短所を理解しましょう。電気配線スペースと断熱材では、求められる性能や課題が大きく異なります。

電気配線スペースとしての長所と短所

電気配線スペースとしてのメリットは、配線の整理整頓と効率的な電力供給が可能になることです。メンテナンス性の向上や火災時の安全性確保にも貢献します。一方で、建築計画の初期段階から十分なスペース確保が必要で、後から変更することが困難というデメリットがあります。

発泡ポリスチレンのメリットと課題

断熱材としてのメリットは、優れた断熱性能と軽量性、そして施工のしやすさです。耐水性にも優れており、長期間にわたって性能を維持できます。しかし、火災時に燃焼しやすく有毒ガスを発生させる可能性があり、シロアリなどの害虫による食害を受けやすいという課題があります。

火災時の安全性と断熱材選定のポイント

発泡ポリスチレンは可燃性の材料であるため、火災時の安全性を考慮した設計が必要です。難燃剤を添加した製品や、防火認定を取得した工法での使用が求められます。建築基準法の防火基準に適合した使用方法を選択し、施工時は火気の取り扱いに十分注意しましょう。

長期使用による劣化や補修への備え

断熱材としての発泡ポリスチレンは、紫外線による劣化や経年変化に注意が必要です。長期間の屋外露出は避け、保護層の設置が推奨されています。定期的な点検により劣化状況を把握し、必要に応じて部分的な補修や交換を行うことで、建物の性能維持が可能です。

EPSに関する建築基準法や技術的な規定

建築におけるEPSの使用には、建築基準法をはじめとする各種法規制が関係しています。電気配線スペースと断熱材では、それぞれ異なる規定や基準が適用されるため、正確な理解が必要です。

EPS設置に関する建築基準法の概要

電気配線スペースの設置については、建築基準法において一定規模以上の建築物に対して非常用照明設備や防災設備への電力供給が義務付けられています。高さが31メートルを超える建築物や、延べ面積が1000平方メートルを超える特殊建築物が対象です。

防火区画・避難経路との関係

電気配線スペースは防火区画の貫通部となるため、ファイアストップ処理が必要です。火災時の延焼防止と避難経路の確保を両立させるため、防火区画貫通のためのパイプスリーブや点検口の設置が求められます。消防法においても防火対象物の用途や規模に応じた規定があります。

断熱材としての認定・等級制度

断熱材としての発泡ポリスチレンは、JIS A9511「発泡プラスチック系保温材」において特号から4号までの5種類に分類されています。密度や熱伝導率、圧縮強さ、吸水量などの性能基準が定められており、用途に応じた製品選択が可能です。

耐久性・リサイクル性と法制度の動向

発泡ポリスチレンの長期性能については、南極の昭和基地で40年以上使用された事例で建築当初とほとんど変わらない断熱性能が確認されています。独立気泡構造により吸水性が低く、水分による性能低下も起こりにくい特性があります。国土交通省では軽量盛土工法マニュアルでEPSの使用を推奨しており、今後も法制度面での活用拡大が期待されています。

EPSの設計・施工で知っておくべき実務ポイント

建築プロジェクトにおいてEPSを効果的に活用するためには、設計段階から施工完了まで一貫した計画と管理が必要です。電気配線スペースと断熱材のそれぞれについて、実務上の重要なポイントを理解しておくことが大切です。

建築図面でのEPS配置の決め方

電気配線スペースの配置は、電気室の位置との関係を最初に検討します。電気室の直上またはその付近に設置することで、幹線経路を最短化できます。1階にも配線スペースを設け、地下ピットなどを利用した経路確保も重要です。各階での同一位置配置を基本とし、将来の設備更新も見据えた余裕のある計画が求められます。

設計者と施工者の情報共有の重要性

電気配線スペースの設計では、構造体に埋め込む配管の位置や寸法を正確に伝達しましょう。図面からの漏れや位置のずれは、全体の解体につながるトラブル事例もあります。設計図と設備図を基にした施工では、関係者間での十分な情報共有と確認作業が欠かせません。

EPS材料選定時のチェックリスト

断熱材としての発泡ポリスチレンを選定する際は、用途に応じた性能等級の確認が必要です。密度や熱伝導率、圧縮強さなどの基準値をチェックし、設置場所の環境条件に適した製品を選択します。防火性能や防蟻処理の有無、リサイクル性なども選定の重要な要素となります。

今後の建築におけるEPSの活用可能性

建築の高断熱・高気密化が進む中で、外張り断熱材としての発泡ポリスチレンの需要は拡大しています。塗り壁との組み合わせによる意匠性と機能性の両立や、持続可能な建築材料としての役割も注目されています。電気配線スペースについても、スマートビルや再生可能エネルギーの普及により、より複雑な配線計画への対応が求められています。

まとめ

建築におけるEPSは、電気配線スペースと発泡ポリスチレンという2つの異なる意味で使用されています。電気配線スペースは建物の電力供給システムの要であり、発泡ポリスチレンは優れた断熱材として活用されています。どちらも現代建築において重要な役割を果たしており、適切な理解と計画的な設計により建物の性能向上に大きく寄与する要素といえるでしょう。

◤カグポン◢◤
家具業界初の営業効率化ツール
家具をポンッと配置して、その場で3Dの提案書と見積もりが作れます!

▼詳細はこちら
https://www.kagupon.com/

この記事を読んだ方におすすめ