耐震スリットとは?地震に強い建物を支える仕組みとポイント

耐震補強 建物

地震大国である日本では、建物の耐震性能が人命を守る重要な要素です。鉄筋コンクリート造の建物には「耐震スリット」と呼ばれる仕組みが採用され、地震時の倒壊を防ぐ役割を果たしています。柱や梁と壁の間に設けられた隙間が、どのように建物を守るのでしょうか。本記事では、耐震スリットの仕組みから種類、効果、施工上の注意点までわかりやすく解説します。

耐耐震スリットってどんな仕組み?建物を守るその働きとは

耐震スリットは、鉄筋コンクリート造の建物において柱や梁と壁の間に意図的に設ける隙間です。地震時に建物の一部に力が集中して破壊されるのを防ぎ、建物全体で揺れに耐えられるよう設計されています。1981年の建築基準法改正で新耐震基準が導入されて以降、多くの建物で採用されるようになりました。

耐震スリットが地震対策で重要な理由

阪神大震災では、設計者が予測していなかった柱や梁のせん断破裂が多発しました。壁と柱が一体化していると、地震の揺れによって特定の部位に応力が集中し、柱が先行して破壊される危険性が高まります。耐震スリットを設けて壁と柱を切り離せば、柱が独立して変形できるようになり、建物全体で地震エネルギーを吸収できます。結果として、部分的な倒壊を防ぎ、人命を守る効果が期待されます。

柱・梁・壁の間に隙間を設ける仕組みとは

耐震スリットは、構造計算上重要な柱・梁・床と、重要性の低い袖壁や腰壁などの雑壁を物理的に切り離す仕組みです。新築の場合は型枠施工時に耐震スリット材を指定位置に充填し、既存建物の耐震補強では壁をグラインダーで切断して3~5センチ程度の隙間を作ります。隙間には発泡ポリエチレン製やロックウールなどの緩衝材を埋め込み、防水性や耐火性を確保します。緩衝材は柔らかい材質のため、地震時に柱と壁がぶつかり合うのを防ぎながら、水平な揺れによる衝撃を吸収します。

耐震スリットと構造スリットの関係

耐震スリットと構造スリットは同じ意味を持つ用語です。新築工事では「構造スリット」、耐震補強工事では「耐震スリット」と呼ばれたのが始まりとされています。構造的に必要なため構造スリットと呼ぶ設計者もいれば、耐震性向上を重視して耐震スリットと呼ぶ技術者もいます。近年は大地震の影響で耐震への意識が高まっており、現場では耐震スリットと呼ばれる機会が増えています。呼び方は異なりますが、建物の安全性を確保するために柱や梁と壁を切り離す役割は共通しています。

スリットがないとどんな影響が出る?

耐震スリットが未設置だと、地震時に壁が柱や梁と一体化して剛性が高まり、変形能力が著しく低下します。壁が取り付いた柱は「太くて短い」状態となり、しなやかに曲がれません。地震の揺れで応力が集中すると、他の柱や梁が力を発揮する前に局所的にせん断破壊が生じ、建物全体の倒壊につながる危険性があります。また、設計段階で想定した変形量に達する前に壁と柱がぶつかり、想定外の損傷が拡大する恐れもあります。耐震スリットがあれば建物のねばり強さが向上し、大地震でも倒壊リスクを大幅に軽減できます。

耐震スリットの種類と設置場所

耐震スリットは設置する部位や方向によっていくつかの種類に分類されます。柱と壁の間に設ける垂直スリット、梁と壁の間に設ける水平スリット、さらに構造の考え方によって完全スリットと部分スリットに分かれます。建物の構造や用途に応じて適切なスリットを選定し、効果的に配置すれば、耐震性能を最大限に高められます。

垂直スリット(柱と壁の間)の特徴

垂直スリットは、柱と一体化している袖壁や腰壁を縦方向に切り離す工法です。柱の内法寸法の1/100以上の厚さを確保するのが一般的で、地震時の横揺れで柱と壁がぶつからないよう設計されています。垂直スリットを設置すれば、壁の影響を受けずに柱が独立して変形できるようになり、柱の剛性を適切に保てます。旧耐震基準の建物に多く採用され、柱のせん断破壊を防止する効果が高いとされています。施工時にはコンクリート打設の側圧でスリットが移動しないよう、固定金具を使用して慎重に設置します。

水平スリット(梁と壁の間)の役割

水平スリットは、梁と壁の境界に横方向に設ける隙間です。厚さは一般的に20〜30mm程度とされ、上下方向の応力を緩和して梁や床への影響を軽減します。垂直スリットのような樹脂製のツバがないため、止水性を確保するために上下にブチルゴム付きの製品を使用します。特に雨がかかりやすい妻面などでは、段差スリットを採用して防水性能を高めます。壁の縦筋は水平スリットより上に適切なかぶり厚さを確保する必要があり、鉄筋キャップやコンクリート製スペーサーで嵩上げする場合もあります。

完全スリットと部分スリットの違い

完全スリットは、柱と壁の間を完全に縁切りして分離し、配筋も独立させる工法です。壁の影響を完全に排除でき、柱が最大限に変形能力を発揮します。一方、部分スリットは一部の鉄筋をつなげたまま残し、構造の安定性を保ちながら変形吸収や応力集中の緩和を図る方法です。完全スリットは柱を「細くて長い」状態にしてしなやかさを確保し、部分スリットは必要な箇所だけ柔軟性を持たせる設計となります。標準図で指定されたとおりに配筋し、目的に応じて適切に使い分けが求められます。

設置位置によって変わる効果と使い分け

耐震スリットの設置位置は、構造計算と構造図で厳密に指定されます。建物の高さや階数、立地条件、構造形式を考慮して、最も効果的な位置にスリットを配置すれば、建物全体の耐震バランスが向上します。壁が多く剛性が高い建物では、スリットを設けると強さが低下する場合もあるため、全体の硬さとのバランスを見極めなければなりません。逆に、柔らかい建物で部分的に硬い壁がある場合は、スリット設置が大きな効果を発揮します。設計者は建物の特性を総合的に判断し、適切な種類と位置のスリットを選定します。

耐震スリットが建物にもたらす効果

コンクリート 工事

耐震スリットは、地震時の建物の挙動を改善し、安全性と耐久性を高める重要な役割を担います。応力の分散、損傷の抑制、変形能力の向上など、複数の効果が相互に作用して建物全体の耐震性能を向上させます。適切に設計・施工された耐震スリットは、大地震時でも建物の倒壊を防ぎ、居住者の命を守ります。

地震時の応力を分散して損傷を防ぐ仕組み

地震が発生すると、建物には上下・水平方向の大きな力が加わります。壁と柱が一体化していると、剛性の違いによって特定の接合部に応力が集中し、局所的な破壊を引き起こします。耐震スリットを設けて柱や壁、梁が独立して動けるようにすれば、応力を複数の経路に分散させられます。結果として、特定箇所への負担が軽減され、構造部材そのものが受ける損傷が少なくなります。建物全体が柔軟に揺れに追従できるようになり、倒壊のリスクを大幅に低減します。

柱や壁のひび割れ・破壊リスクを減らす働き

壁と柱の境界部にスリットを設置すれば、剛性の違いによるひび割れや剥離を防止できます。地震後の補修範囲や補強コストも削減され、実際にスリットを設けた建物では地震後の補修範囲が30〜40%減少したという報告もあります。スリット周辺の構造が独立しているため、損傷が起きた場合でも部分補修で対応でき、修繕コストや工期を短縮できます。特にマンションや商業施設など、日常的な運営が止められない建物において、メンテナンス性の高さは大きな利点となります。

建物全体の変形能力と靭性の確保

耐震スリットの最大の効果は、建物の変形性能を飛躍的に高められる点にあります。スリットによって柱や壁、梁が独立して動けるようになれば、建物全体がしなやかに揺れに追従し、エネルギーを吸収する構造となります。壁が取り付いて「太くて短く」なっていた柱が、スリットにより「細くて長い」柱になり、柔軟に曲がれます。変形能力が向上すれば、一部の部材が先行して壊れる事態を回避でき、建物全体で地震に耐えられるようになります。靭性が確保され、倒壊リスクが大幅に軽減されます。

耐震設計の中でスリットが果たす役割

耐震スリットは、新耐震基準を満たすために採用される耐震設計の一手法です。構造設計者は柱・梁・床・基礎・一部耐震壁など主要構造部だけで建物を保持できるよう構造計算を行い、雑壁が悪影響を及ぼさないようスリットで切り離します。スリットを設けなければ、雑壁が柱や梁に取り付いて全体のバランスが悪くなり、構造的な悪影響を及ぼす恐れがあります。耐震スリットは、評価が複雑な壁付き柱を普通の柱にして設計を簡便化する効果もあり、正しく評価できる建物を実現するために不可欠な要素です。

設計・施工のポイントと注意点

建築現場 打ち合わせ

耐震スリットの性能は、設計段階の検討と施工精度に大きく左右されます。スリットの幅や位置、防水・耐火性能、施工時の固定方法など、細部まで注意を払わなければ期待した効果が得られません。定期的な点検とメンテナンスも含めて、長期的に建物の安全性を維持する取り組みが重要です。

スリットの幅や位置を決める設計基準

スリット幅は、建物の高さの1/100程度までの変形を見込んで設計されます。例えば階高が4mで梁のサイズが70cmなら、壁の高さ3.3mの1/100である約3.3cmの隙間を確保します。想定した変形に達する前に壁と柱がぶつからないよう、適切な幅が必要です。スリットの位置は構造計算と構造図で厳密に指定され、構造設計者が柱・梁・床・基礎・一部耐震壁など主要構造部だけで建物を保持できるよう検討します。意匠設計者は細い幅を好みますが、必要な幅は構造的に決まるため、しっかり確認が求められます。

防水・耐火・気密性への配慮

スリット部は地震時に動いて取り付いている部分が破断するよう設計されているため、漏水対策が不可欠です。垂直スリットと水平スリットの接続部では、止水を考慮して水平スリットの上に垂直スリットを乗せるように設置します。水平スリットがL字に折れ曲がる場合は、ブチルゴムが連続するようスリットを45°にカットして取り付けます。延焼範囲や区画壁等で耐火性能が求められる部分には、耐火性能を有したスリット材を使用し、耐火材が連続するよう設置します。ルーフバルコニーや浴室などの防水下地には原則としてスリットを設けず、やむを得ない場合は増し張りなどの適切な処置が必要です。

施工時に押さえておきたいポイント

コンクリート打設時には、ねじれ・曲がり・はずれなどの不具合が生じやすくなります。型枠脱型後にスリット設置状況を調査し、不具合があれば必ず補修してから仕上げに進みます。耐震スリットがずれていると建物の美観が損なわれるため、型枠大工には高い技術力が求められます。垂直スリットはコンクリート打設の側圧により移動しやすいため、固定金具を使用して確実に固定します。外壁タイルが耐震スリットをまたぐと浮きやすいため、設計段階で配慮しつつ、現場ではしっかり固定する注意が必要です。施工中や引き渡し後のずれは水漏れやひび割れの原因となるため、慎重な施工管理が欠かせません。

定期点検・メンテナンスでチェックすべきこと

耐震スリットは設置後も定期的な点検が必要です。スリット周辺のひび割れの有無、スリット材の劣化・硬化・脱落、防水層やコーキングの劣化、内装仕上げの変形などを確認します。新築時は引き渡し直後と1年・5年目の定期点検で初期変形を確認し、既存建物は大規模地震の後や10〜15年ごとの大規模修繕時に実施します。必要に応じて赤外線サーモグラフィーや電磁波鉄筋探査などの非破壊検査を行い、内部のスリット材の劣化や空隙の状態を確認します。劣化したスリット材は新しい弾性発泡材やゴム系緩衝材に交換し、コーキングを再充填して防水性を回復させます。補修時にモルタルやコンクリートでスリットを埋めてしまうと、変形吸収機能が失われるため、専門業者による監理のもとで補修を行います。

まとめ

耐震スリットは、地震時の応力を分散させ、柱や梁の破壊を防ぐ重要な仕組みです。適切な設計と施工により、建物全体の変形能力が向上し、倒壊リスクを大幅に軽減できます。スリットの種類や設置位置、防水・耐火性能への配慮、定期的なメンテナンスまで、総合的に取り組めば建物の安全性と資産価値を長期的に維持できます。地震に強い建物づくりには、耐震スリットの正しい理解と適切な管理が不可欠です。

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